飲食店の資金繰りが苦しくなる理由と改善・資金調達方法を解説

飲食店の資金繰りが苦しくなる理由と改善・資金調達方法を解説

飲食店経営では、日々の売上管理や顧客獲得だけでなく、資金繰りの安定が大きな課題とされています。仕入や人件費、家賃などの支払いは猶予なく発生する一方、売上代金の入金は遅れることも少なくありません。業界の特徴として、現金不足に陥りやすいのが実情です。さらに近年は物価や光熱費の上昇、キャッシュレス決済の普及により、資金繰りの悩みは一段と深刻化しています。

本記事では、飲食店が資金繰りに悩む業界特有の理由を整理し、改善に役立つ実践的な手法や注意点、資金調達の方法について紹介します。いざというときの資金調達方法も含め、先を見据えて情報を集めておきましょう。

目次
  1. 飲食店が資金繰りで苦しくなりやすい業界特有の理由
    1. 売上が季節や曜日に左右され収入が不安定になりやすい
    2. 客席稼働率や回転率の低下が収支悪化を引き起こす
    3. 食材費や人件費など固定費と変動費の負担が大きい
    4. キャッシュレス決済の入金遅延が資金不足を招いている
  2. 飲食店の資金繰りを改善して安定経営を実現する方法
    1. 資金繰り表で現金の流れを見える化し先行きを把握する
    2. メニューや原価率を見直して利益率の低い品を削減する
    3. 繁閑に応じた人員シフトや仕入調整で変動費を管理
    4. 仕入先と交渉して支払サイト延長や入金前倒しを実現する
  3. 飲食店に適した資金調達方法の選び方を解説
    1. 日本政策金融公庫など制度融資で長期安定資金を確保する
    2. ファクタリングで未回収売掛金を早期現金化して資金を確保
    3. 請求書カード払いゆとりペイで支払いを柔軟にコントロール
      1. ゆとりペイの基本情報
  4. 飲食店が資金繰りで失敗しやすい事例と避けるべき行動
    1. 安売り競争で利益を削り資金繰りを圧迫してしまうリスク
    2. 楽観的な売上予測で資金不足に陥る危険な計画の立て方
    3. 家賃や光熱費など固定費削減を怠ることで資金を圧迫する
    4. 税金や社会保険料滞納で信用失墜や法的リスクを抱える
  5. 飲食店の資金繰りに関するよくある質問と回答

飲食店が資金繰りで苦しくなりやすい業界特有の理由

飲食業界は、他の業種と比べ資金繰りの不安定さが際立っている分野です。日々の売上は季節や天候の影響を受けやすく、安定的な収益を見込むのが難しいのが特徴といえます。さらに人件費や食材費などの固定費・変動費の割合が大きいため、売上が少し落ち込むだけで経営に大きな打撃を与える構造になっています。加えて、キャッシュレス決済の利用拡大によって店舗側への入金は遅れ、支払いに充てられる現金が不足するケースも増加しています。

こうした要因が重なると、飲食店は資金ショートに陥りやすい立場に置かれます。日常的に資金繰りへ細心の注意を払い、継続的な情報収集と対策を講じる姿勢が欠かせません。ここでは、資金繰りを難しくしている要因を4つの観点から詳しく見ていきます。

それぞれ順に解説します。

売上が季節や曜日に左右され収入が不安定になりやすい

飲食店の売上は天候や季節、曜日、イベントの有無など外的要因に左右されやすい傾向があります。たとえば夏のイベント期には冷たい飲料が売れやすく、冬には鍋料理や温かい飲み物の需要が高まります。週末や祝日に客足が集中する一方で、平日の昼間や悪天候の日は来店数が減少することも少なくありません。特別な事情がなくても売上は常に変動します。

一方で、家賃や人件費といった支出は毎月必ず発生します。とくに小規模店舗や個人経営の店舗では余剰資金を蓄えるのが難しく、売上が下がると資金不足に直結するリスクがあります。こうした業界特性が資金繰りの難しさを生み出し、計画的な資金管理が求められる背景になっています。

客席稼働率や回転率の低下が収支悪化を引き起こす

飲食店の収益は、客席の稼働率と回転率に大きく依存します。ピークタイムに空席が目立ったり、食後の長居で次の客が入店できなかったりすると、本来得られるはずの売上を逃すことになります。また、人手不足によってピーク時の接客が滞ると、回転率が低下して収益を損ないます。

稼働率や回転率の低下は日々の現金収支に直結し、資金繰りの悪化を加速させます。店舗の立地や形態によって影響の度合いは異なるものの、改善が遅れると資金不足に拍車がかかる点は共通しています。

売上高 = 客席数 × 客席稼働率 × 回転率 × 客単価

効率的な売上アップには、客席稼働率と回転率のバランスの良い施策が求められます。そのほか、客席数の増加や客単価のアップも解決策になりますが、単純に客席数だけ増やすのも難しく、急に客単価を上げるのも容易ではありません。

そのため、たとえば4人席を1人客が利用するパターンが多い場合は個人客向けのテーブル構成を増やす、追加注文に結び付きやすいトッピングやデザートメニューを増やす、限定メニューを提供してブランド価値を高めるなどの対策が考えられます。

食材費や人件費など固定費と変動費の負担が大きい

飲食店では食材費や人件費の比率が高く、固定費と変動費のバランス管理が難しい業種です。食材費は価格や仕入量が変動しやすく、来店数が減っても人件費を大きく削減するのは困難です。光熱費や家賃も固定的に発生し、売上が下がっても支出を抑えにくい構造になっています。

こうした費用を十分に管理できなければ利益が削られ、手元に残る現金が減少し、資金繰りを一層厳しくします。キャッシュフローの管理のためにも固定費の見直しが重要です。

光熱費
  • 新電力・新ガス会社へ乗り換え
  • 電気・ガスセット割の利用
人件費
  • スポット人材の活用

光熱費についてはプランの見直しが可能です。料金単価の安い新電力・新ガス会社へ乗り換えを検討します。家賃についても収支状況によっては価格交渉を検討しましょう。人件費についてはスポット的に稼働できる人材の導入も拡大しています。また、厨房機器などのリース契約は契約期間終了前に余裕をもって再リースや買取の比較検討を行いましょう。中古機器を購入した場合と比較し、リース継続の可否を検討します。

キャッシュレス決済の入金遅延が資金不足を招いている

キャッシュレス決済の普及で顧客の支払いは便利になったものの、店舗側にとっては入金までのタイムラグが新たな課題です。クレジットカードやQRコード決済では、決済ごとに「月末締め・翌月末払い」など異なるサイクルがあり、実際の入金まで数週間を要する場合もあります。売上が伸びても現金化のサイクルが長ければ、仕入や給与の支払いに影響が出やすくなります。

キャッシュレス決済の利用率が高い店舗ほど手元の現金が不足しますので、入金サイクルの早い決済サービスを選ぶ、入金サイクルを短縮するオプションを利用する、などの方法が推奨されます。決済端末の見直しや変更が難しい場合、後述する「ファクタリング」「請求書カード払い」など、資金繰りを改善できるサービスの利用が有効です。

クレジットカード決済マルチ決済サービスQRコード決済
基本的な入金サイクル月1回または月2回が主流月3回、月6回、または最短翌日入金など、入金頻度が選択できる月1回が基本
手数料3.5% 〜 4.0%程度3.25%前後通常の月1回入金は手数料無料
早期入金オプションは追加で手数料が発生
遅延リスク月1回入金の場合は最長約60日程度遅延は少ない
入金頻度を選択できる
月末締め翌月末払いなどが多い
早期入金オプション(有料)あり

飲食店の資金繰りを改善して安定経営を実現する方法

資金繰りの安定化には、収支構造を正しく把握し、現金の流れを最適化する仕組みづくりが不可欠です。資金繰り表を用いた売上予測や提供メニューの見直し、繁閑に応じたシフト調整といった日々の施策を積み重ねることで、経営状態は大きく改善していきます。

近年は、経験則や現場の工夫だけでは対応が難しい領域も増えました。仕入先や取引先との支払・入金タイミングの調整は現実的な手段の一つだといえます。また、AIによる需要予測機能付きPOS(販売時点情報管理)システムも導入しやすくなっています。ただし、予測機能には一定のデータ蓄積が求められるため、導入してすぐに効果を得られるとは限りません。

ここでは、すぐに取り組める4つの資金繰り改善策を紹介します。日々の現金記録や原価率・固定費の見直しといった地道な取り組みですが、資金の流れを整えることで長期的な改善が期待できます。

それぞれ順に解説します。

資金繰り表で現金の流れを見える化し先行きを把握する

資金繰りを改善するためにも、現金の入出金を正確に把握する記録作業は欠かせません。資金繰り表を作成すれば、売上入金の時期や仕入・給与・家賃などの支払スケジュールを整理できます。

売上入金が集中する時期と金額、支払いが重なる時期と支払額を把握すれば、資金不足のタイミングを早めに探し出せます。たとえば翌月の家賃や仕入れ代金の支払いに対して、今月の入金額が十分かどうかを見通せます。

資金繰り表を日次や週次で更新すれば、突発的な支出や売上変動にも対応できます。デジタル会計ソフトを使えば自動計算や可視化が進み、経営判断のスピードも上がります。現金不足が早期に把握できれば、融資の申請やファクタリングの利用など、適切な手段を取る余地も生まれます。日々の現金の動きを管理し、将来を見える化することが重要です。

メニューや原価率を見直して利益率の低い品を削減する

飲食店では売上規模だけでなく利益率の管理も資金繰りに直結します。メニュー構成や原価率の見直しは即効性のある方法です。また、注文が少なく食材ロスにつながるメニューが多いと、繁盛してもなかなか利益が残りません。売れ行きを分析して定期的にメニューを見直し、食材の価格変動の見通しも含めて、利益率が低いもの、注文頻度の少ないものを整理します。

価格改定やセットメニューの導入によって客単価を引き上げる方法もあります。食材を共通化すれば仕入コストや在庫ロスを抑えられます。仕入先の見直しも含め、メニュー改善は利益の最大化と資金繰りの安定に直結する取り組みです。

中小企業庁の調査でも『自社の製品・商品・サービスの差別化や、市場環境を意識した経営を実施している事業者ほど価格転嫁が進んで』いると分析されています。(参照:中小企業庁 調査室「2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」)

繁閑に応じた人員シフトや仕入調整で変動費を管理

売上に応じたコスト管理も欠かせません。原材料費、仕入れといった変動費は、繁忙期と閑散期の予測に合わせて調整するのが理想です。売上予測から過不足なく食材の仕入れを調整できればコスト圧縮につながります。POSデータ分析により、曜日や天候を加味した需要予測を活用する方法もあります。(参照:独立行政法人 中小企業基盤整備機構

また、人件費の柔軟な管理も資金繰りの鍵です。平日の来店客が少ない時間帯はスタッフを減らし、週末のピーク時には増員するなど、繁閑に応じたシフト体制が求められます。レギュラーメンバーでの調整が難しい場合や人員不足が生じる場合は、スポット的に稼働できる人材の導入も検討します。

小規模店舗で広がっているスキマバイトサービスでは、実際の稼働分に加えてプラットフォーム利用料(給与の約15%〜30%)が発生します。導入時は、ワーカー給与の1.15〜1.3倍程度の費用感を前提に検討する必要があります。

仕入先と交渉して支払サイト延長や入金前倒しを実現する

資金繰り改善には、取引条件の見直しも効果的です。仕入先に対して支払サイト(締め日から支払日までの期間)の延長を交渉できれば、手元資金を調整しやすくなります。一方で売掛金については、得意先に入金前倒しを依頼する方法もあります。

もちろん、このような交渉は関係性を損なわないよう慎重に進める必要があります。オンライン請求管理や早期入金サービスの普及により、資金サイクルを効率化する企業も増えていますが、必ずしも自社の希望が通るとは限りません。

安定経営を実現するには、取引先との良好な信頼関係を築きつつ、自社で資金繰りを安定させる仕組みを整えることが現実的です。そのうえで、外部からの資金調達を組み合わせることも重要な選択肢となります。次の項目では、資金調達の具体的な手段について解説します。

飲食店に適した資金調達方法の選び方を解説

飲食店が安定した経営を続けるには、資金繰りの改善だけでなく外部からの資金調達という選択肢も重要です。資金不足が一時的なものか、あるいは長期的な課題かによって適切な調達手段は異なるため、状況に応じて検討する必要があります。

公的融資は低金利かつ長期返済に対応しており、設備投資や店舗改装など大規模な資金需要に適しています。一方で、売上の入金遅延や急な支払いといった短期的な資金ニーズには、ファクタリングや請求書カード払いのように迅速に現金を確保できる方法が有効です。

資金調達は返済負担やキャッシュフロー全体に影響を及ぼすため、自店の状況や将来の計画に合った方法を選びます。

ここでは飲食店の特性を踏まえ、3つの主要な資金調達手段とその選び方について解説します。

日本政策金融公庫など制度融資で長期安定資金を確保する

長期的な安定経営のためには、低金利で返済期間を長く設定できる公的融資は非常に有効な資金調達手段です。日本政策金融公庫は中小企業や小規模事業者向けに幅広い融資制度を設けており、民間の金融機関に比べて審査が通りやすいケースもあります。新規開業や設備投資、運転資金の確保などに利用でき、長期かつ低金利で借入が可能です。審査にあたっては事業計画や収支予測の提出が求められますが、安定した資金調達ができる点は大きなメリットです。

さらに、各自治体が実施している制度融資信用保証協会の利用により、金利や保証料の負担を軽減できる場合があります。自治体の制度融資は通常の融資よりも優遇が適用されることが多く、低金利であり、保証料の負担の軽減も見込まれます。事業拡大や改装を検討する際に、非常に有用な選択肢です。

日本政策金融公庫(政府系金融機関)中小企業、小規模事業者などを対象に幅広く融資を行う
制度融資(自治体主導の優遇融資)地方自治体(都道府県や市区町村)が実施する融資
地域の中小企業を支援するために、金融機関、信用保証協会と三者連携して実施
信用保証協会(公的な保証機関)中小企業・小規模事業者が金融機関(銀行・信用金庫など)から融資を受ける際の公的な保証人の役割を担う

ファクタリングで未回収売掛金を早期現金化して資金を確保

ファクタリングは、売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらい、早期に現金化するサービスです。クレジットカードやQRコード決済、法人取引の売掛金など、入金までに時間がかかる債権を現金化できるため、売掛金の早期回収を意味します。

独立行政法人中小企業基盤整備機構の情報サイト「J-Net21」でも、ファクタリングは「キャッシュポジションを高める方策としての資金調達方法」の1つとして紹介されています。アメリカでは「ABLローン」と呼ばれる同様のサービスが拡大しており、短期資金の確保方法として一般化しています。(参照:日本政策投資銀行「ABLとは」)

ファクタリングは売掛金入金までのタイムラグに悩む飲食店にとって非常に有効な方法です。金融機関の融資とは異なり、借入には該当しないため負債として計上されません。手数料はかかりますが、審査は売掛先の信用力で評価されるため、自店の信用度が低くても利用できる場合があります。

多くがオンライン完結型であり審査が早いため、家賃や人件費、仕入れ支払いなど緊急性の高い資金需要に対応可能です。金融機関の融資が間に合わないケースでも利用できる点は大きな利点といえます。

ファクタリング会社日本政策金融公庫制度融資
法的性質売掛金の売却(ファクタリング)による早期回収融資(借入れ)による資金繰りの改善融資(借入れ)による資金繰りの改善
事業民間のファクタリング会社による事業政府系金融機関による融資自治体が窓口の融資
融資実務は民間金融機関が行う
保証不要不要(原則、保証協会を利用しない)信用保証協会の保証が必須
資金調達スピード最短即日~数日
オンライン完結型が普及
一般的な融資スピード
(約1.5~2ヶ月)
時間がかかる
(約2~3ヶ月以上)
コスト手数料が必要
(一般的な融資より割高の傾向)
金利が必要
年利 1.0%台後半
~2.0%台が多い
(一般的な融資より
低金利)
金利+保証料
年利 1.0%台後半
~2.0%台が多い
(一般的な融資より
低金利)
審査で重視される点売掛先の信用力事業計画・将来性財務状況・事業計画

請求書カード払いゆとりペイで支払いを柔軟にコントロール

請求書カード払いは、銀行振込で支払う予定だった請求書(買掛金)を、手持ちのクレジットカードで支払えるようにするサービスです。決済代行サービス会社が引き受けます。カード会社の締め日と引き落とし日には1ヶ月超の差がありますので、スケジュール的に支払時期を先送りできる仕組みです。

請求書カード払いの特徴
  • 審査・担保:融資や借入ではないため、担保や厳格な審査は不要
  • 利用限度額:カードの利用限度額内(※当月の利用可能範囲内)
  • ポイントの獲得:支払額についてクレジットカードのポイントやマイルを獲得可能

手続きは、決済代行サービスへの登録とクレジットカード決済のみで完了します。審査を受けて利用が決まると、クレジットカード決済で請求金額と手数料を支払います。

代行サービス側は利用者に代わって請求書通りに取引先の指定口座へ振込で立替払いします。利用者側は結果的にカード料金の引き落とし日まで支払いを延期できる方式です。加えて、カード利用によるポイント還元や、利用明細の一元管理といった副次的なメリットもあります。

ゆとりペイの基本情報

ゆとりペイ

請求書カード払いサービスの「ゆとりペイ」は、手数料の低さと対応範囲の広さから注目されているサービスです。最大の特徴は社会保険料や税金の支払いにも対応している点で、手数料は2.9%という業界最安水準に設定されています。「ゆとりペイ」なら資金繰り全体を幅広くサポートできます。

ゆとりペイ
(請求書カード払い)
一般的な
請求書カード払いサービス
サービス内容請求書の立替払い (カード決済)請求書の立替払い (カード決済)
決済手数料の目安2.9%(非課税)2.5%〜4.0%程度
社会保険料・納税への対応対応しているサービスにより異なる
利用限度額利用者のカード限度額内利用者のカード限度額内
クレジットカード
対応ブランド
Visa
Mastercard
JCB
多くの請求書カード払いサービスでVisa と Mastercard に対応
JCBは事業者により異なる

「ゆとりペイ」をはじめとする請求書カード払いのサービスを利用すれば、請求書の支払い期限を繰り延べられます。さらに、前述したファクタリングサービス(債権買取型)を利用すれば売掛金の現金化も可能です。

資金繰りの改善には固定費の削減など根本的な対策が必要ですが、資金繰りの危機に直面した際、上記のような複数の選択肢を組み合わせると、安定性は大きく向上します。こうした外部サービスを理解しておくことが、万一の事態に備える上で安心材料となります。

飲食店が資金繰りで失敗しやすい事例と避けるべき行動

資金繰りの改善や外部資金の活用を進めている中で、経営状態が思ったように進まないこともあります。とくに飲食業界は売上予測が難しいため、リスクを見誤ることもあります。短期的には効果があるように見えても、長期的には経営基盤を弱めてしまう要素も存在するため注意が必要です。

ここでは、多くの飲食店が陥りがちな資金繰りの落とし穴とアドバイスについて解説します。資金繰りに失敗しやすい典型例を把握し、同じような過ちや思わぬ落とし穴を避けることが肝要です。

それぞれ順に解説します。

安売り競争で利益を削り資金繰りを圧迫してしまうリスク

競争の激しい飲食業界では、集客のために値下げや割引キャンペーンを頻繁に行う店舗も少なくありません。しかし、過剰に続けると利益率が大きく削られ、手元に残る現金が乏しくなります。原価率の高いメニューを低価格で提供すれば、販売するほど赤字が拡大する可能性もあります。一時的に客数が増えても、根本的な改善にはつながりません。むしろ安さだけが評価されるようになり、店舗の価値を下げてしまう可能性もあります。

安定した売上と資金繰りを維持するには、適正な価格を保ち、メニューの質やサービス、店舗の雰囲気といった付加価値を高める戦略が重要です。また、独自のポイントシステムや割引券・キャンペーンなどの施策は効果を分析し、必要に応じて廃止する決断も重要です。資金を厳密に管理し、資金繰りの改善に集中することが望まれます。

楽観的な売上予測で資金不足に陥る危険な計画の立て方

資金繰り計画を立てる際、楽観的な売上予測を前提にすると現実とのずれが生じやすくなります。予測が甘いと、本来必要な運転資金を過小に見積もってしまい、資金ショートを招きかねません。予測する際は、原材料費、人件費、家賃などの支出を現実的に見積もり、売上についても楽観することなく堅実に想定する必要があります。

売上は急に伸びるものではなく、天候不順や原材料費の価格変動によって急落することもあります。過去の実績や競合店の動向を踏まえ、保守的で現実的な予測を立てることが大切です。繁忙期の売上は例外的な「外れ値」として扱い、安定的な数値を基準に資金計画を立てましょう。売上予測を控えめに設定するほうが、結果的に余裕のある資金繰りにつながります。継続的にデータを記録し、現実との差を見て修正していけば、精度も徐々に高まります。

家賃や光熱費など固定費削減を怠ることで資金を圧迫する

人件費や原材料費に加え、家賃・光熱費・通信費といった固定費も定期的に見直すべき領域です。売上に関係なく毎月一定額が発生するため、改善効果の大きい分野といえます。たとえば電力プランの変更やLED照明の導入など、省エネ施策を実施することで長期的なコスト削減が可能です。

固定費の見直しは重要な分野です。見直しを怠っていると、売上が落ち込んだ時期に資金繰りが急速に悪化します。家賃交渉や保険契約の見直しなど、積極的な取り組みが必要です。導入による費用対効果の高い施策については、時間をかけて情報を収集します。節税関連も注目すべき部分です。固定的な支出を下げることは収益構造の改善につながり、安定経営への第一歩となります。

税金や社会保険料滞納で信用失墜や法的リスクを抱える

資金繰りが厳しくなると税金や社会保険料の支払いを後回しにしたくなるかもしれませんが、滞納は絶対に避けなければなりません。延滞税や追徴課税が発生するだけでなく、財産調査や差し押さえなどの法的措置に発展する可能性もあります。(参照:国税庁「国税徴収法 第142条関係 捜索の権限及び方法」)

法的措置が取られると、店舗の不動産、機械設備なども差し押さえの対象となります。銀行預金が押さえられると情報が金融機関に伝わり、融資や取引が困難になります。取引先に知られることで信用が失墜する恐れもあるため、滞納はリスクしかありません。税金や社会保険料の支払いは、経済的に厳しくても最優先で対応しましょう。

支払いが難しい場合は、早めに税務署や年金事務所に相談します。一時的に納付が困難な事業者向けに、強制徴収を猶予・停止する制度も設けられています。ただし適用要件がありますので、事前の相談が必須です。また、日程を調整すれば資金を確保できる場合、前述のファクタリングによる売掛金売却や、税金・社会保険料の支払いにも対応できる請求書カード払いサービス(例:ゆとりペイ)の活用をおすすめします。

飲食店の資金繰りに関するよくある質問と回答

飲食店に必要な運転資金はいくらでどう計算すればよい?

運転資金は「売上回収までの期間に必要な経費」と考えるのが基本です。一般的に事業の運転資金は2~3ヶ月分が目安とされますが、飲食店の場合は売上が急減したときやキャッシュレス決済の入金が遅れたときのつなぎ資金が必要になります。

固定費をベースに計算し、「月の固定費の3〜6ヶ月分」を備えておくと安心です。家賃、人件費、水道光熱費といった固定費と、食材費など仕入れの変動費を合わせた月の総支出額をもとに計算します。

たとえば月の固定費が200万円であれば、少なくとも600万円が必要です。また、年末年始や夏季など、繁忙期と閑散期の売上の差が大きい場合、売上の少ない時期の資金繰りも考慮して多めに確保しておく必要があります。

資金繰り表はどう作成し日々の管理に活用すればよい?

資金繰り表は、現金の入出金予定を時系列でまとめた表で、エクセルなどの表計算ソフトを使って簡単に作成できます。作成の際は、「収入の部」と「支出の部」に分けて、日付・項目・金額を記入します。

収入には、現金売上やクレジットカード売上、売掛金入金などを記録し、支出には家賃、人件費、仕入費、水道光熱費、税金、借入金返済などを記載します。日次や週次単位で更新すれば現金の流れを正確に把握できますし、将来の現金収支の把握や資金不足の予測に役立ちます。

資金不足を早めに予測できれば、融資申し込みやファクタリングの活用など、事前に対応策を取る余地が生まれます。資金繰り表は単なる記録ではなく、経営判断の独自データとして活用できます。

キャッシュフロー計算書は資金繰り管理にどう役立つの?

キャッシュフロー計算書は、一定期間における現金の流れを「営業活動」「投資活動」「財務活動」に分類して示す財務諸表です。資金繰り表が将来の現金の流れを予測するのに対し、キャッシュフロー計算書は過去の現金の流れの分析に役立ちます。

経営全体の健全性を判断するために有効です。

たとえば、営業活動(日常の営業)のキャッシュフローがプラスであれば、本業で現金を生み出せていることを示します。反対に赤字が続く場合は、本業の収益構造に問題があると判断できます。また、投資活動のキャッシュフローがマイナスに偏っている場合は、設備投資が過度である可能性があり、見直しが必要です。

定期的にキャッシュフロー計算書を確認すれば、現金の使い道が適切かどうかを客観的に把握でき、資金繰り改善の具体策を立てる手掛かりとなります。

売掛金が少ない飲食店でも入金遅延は問題になるの?

売掛金が少ない場合でも、キャッシュレス決済の比率が上がるにつれて入金遅延の影響を受けやすくなっています。クレジットカードや電子マネー、QRコード決済などの売上は、実際の入金まで数日~数週間のタイムラグが発生するのが一般的です。

売上が好調な時期には見逃されがちですが、売掛金の入金が先延ばしになる一方で、家賃や人件費、光熱費の支払いは定期的にやってきます。売上が変動しやすい飲食店ならではの問題ですが、売上が減少する局面で入金までのタイムラグは資金繰りに大きく影響します。

このような事態が起きた場合、ファクタリングなどの現金化サービスを利用すればキャッシュレス決済による売上債権も早期に現金化できます。入金遅延による資金不足を解消する有効な手段となります。

融資審査で重視されるポイントと自己資金なしでの可能性は?

融資審査では、返済能力を示す事業計画や収支状況が重視されます。事業計画の実現可能性、これまでの経営実績、そして自己資金の状況などが総合的に評価されます。

自己資金がない場合でも、売上の安定性や改善計画、過去の取引実績によっては融資を受けられるケースもあります。しかし、自己資金は事業に対する真剣度や計画性を示す指標として重視されるため、全くなしの状態では信用度も下がります。ゼロからのスタートは非常に厳しいのが現実です。少額でも準備しておくことが望ましいでしょう。

2024年に日本政策金融公庫の「創業融資」制度が拡充され、「創業支援」「新規開業・スタートアップ支援資金」といった枠組みが設けられています。このような制度を利用すれば、一定の条件を満たすことで自己資金がなくても融資を受けられる可能性があります。

ただ、自己資金を準備したほうが審査の通過率は格段に高まります。可能な限り自己資金を用意しておくことが、成功への近道になるといえるでしょう。