資金ショートとは?原因・リスク・対策まで詳しく解説

資金ショートとは?原因・リスク・対策まで詳しく解説

資金ショートとは、会社を経営していて事業運営に必要な資金が不足して回らない状態をあらわします。資金ショートは、単純に考えれば手持ちの資金以上の投入が必要になり、その資金を工面できない状態とも言えるでしょう。

では、資金ショートの状態は何が原因で起きるのでしょうか。ビジネスでもっとも資金ショートになる原因は、売上の減少です。中小企業庁では、企業による「売上高の減少」の要因として次の状態を指摘しています。

  • 商圏自体(取引先や顧客)の景気が悪い:売上高減少企業全体の66.5%
  • 商品・サービスの品質と信頼性が低い:売上高減少企業全体の1.5%

売上高減少の要因は、6割以上の企業が市場の景気を指摘しています。ただし、企業が資金ショートを起こす原因は他にも考えられるでしょう。

本記事では、資金ショートが起きる原因やリスク、ショートさせないための対策などを詳しく解説します。自社ビジネスの資金繰りに不安を感じている経営者はぜひ資金調達の参考として役立ててください。

目次
  1. 資金ショートとは売上ではなく現金不足による経営危機
    1. 資金ショートと赤字の違いをわかりやすく解説
    2. 資金ショートと債務超過の違いをわかりやすく解説
  2. 資金ショートが起きたときに企業が直面するリスク
    1. 資金ショートが起きると黒字でも倒産のリスクがある
    2. 取引先への支払遅延で信用を一気に失う恐れがある
    3. 不渡りや銀行取引停止処分は事業継続の致命傷になる
    4. 社員の給与未払いは離職と法的トラブルを招く
  3. 資金ショートが起こる中小企業に共通する主な原因
    1. 入金と支払いのタイムラグが最大の引き金になる
    2. 売掛金の焦げ付き(未回収)が経営を直撃する
    3. 固定費の比率が高く売上低下時のキャッシュ維持が困難
    4. 金融機関への借入返済や利息支払いの負担が重い
    5. 税金や社会保険料の支払いも資金を圧迫する
    6. コロナ禍・原材料高騰など外部要因の変化に対応できない
    7. 資金管理体制が甘いと資金繰り表が機能しない
  4. 資金ショートを回避するために知っておきたい予防策
    1. 資金繰り表を毎月作成し現金収支の可視化を徹底する
    2. 回収サイトと支払いサイトのバランスを最適化する
    3. 売掛債権を早期に現金化する仕組みを用意しておく
  5. 資金ショートした場合に検討すべき緊急対策
    1. 支払い猶予や分割交渉で短期的に資金を確保する
    2. すぐに現金化できる資産を洗い出して売却を検討する
    3. 銀行融資・制度融資を受けるための動きを即座に始める
    4. 請求書カード払いの活用で支払いを最大60日引き延ばす
    5. ファクタリングを活用して売掛債権を売却す

資金ショートとは売上ではなく現金不足による経営危機

資金ショートとは、冒頭で触れた「売上高減少」だけが原因でしょうか。先ほどの中小企業庁の見解だけで判断した場合、多くの企業が「景気の悪化」だけで済ませています。しかし、「景気の悪化」は、社会全体で見た場合の判断です。要するに、資金ショートと売上をつなげて考えることは不十分ではないでしょうか。

資金ショートは、売上ではなく現金不足による経営危機を招いているシグナルとも言えます。関東信越税理士会では、現金不足の状態を「現金不足は、帳簿上の現金残高と実際の現金残が合わないこと」と定義しています。

実際の現金残高と帳簿が合わない状態が続けば、当然のことながらどこかのタイミングで現金が足りなくなるでしょう。現金が足りなくなり取引先などに支払いができなくなれば、ビジネスは回せなくなります。要するに、経営危機の状態となるわけです。

以上のように、資金ショートは単なる売上の減少ではなく、現金不足が招く緊急性の高い経営危機です。では、この資金ショートは、よく耳にする「赤字」や「債務超過」とはどのように違うのでしょうか。ここからは、その違いを整理していきます。

それぞれ順に解説します。

資金ショートと赤字の違いをわかりやすく解説

資金ショートは、企業における経営危機の状態を意味します。そのため、経営状況の悪化を示す赤字と同じく捉えるかもしれません。

ただし、資金ショートと赤字は経営状況をあらわす以外は違う意味合いになるでしょう。赤字は支出が収入より多くなる状態をあらわします。経営状態としては、利益が出ず損失につながる状態です。

資金ショートは、現時点において支払う資金がない状態です。そのため、どこかで資金を調達しなければ会社経営は破綻してしまいます。つまり、資金ショートの状況は猶予のない状況をあらわすわけです。

一方の赤字の状態は、経営状況の悪さを示していますが、緊急性の高い状況とまでは言い切れません。赤字の状態を把握したことで、経費削減したり、新事業を始めたりすることで黒字化する場合もあります。要するに、赤字は資金ショートと比べて緊急性の低い状態とも言えるでしょう。

資金ショートと債務超過の違いをわかりやすく解説

資金ショートは、債務超過とも意味合いが異なります。資金ショートと債務超過は、どちらも負の状況には違いありません。

債務超過とは会社の貸借対照表における負債が増えてしまった状態をあらわします。資産よりも負債が増えてしまうと、資産を等価で売却した場合に、借金だけが残る状態です。つまり、借りているお金(債務)が許容範囲を超えている状態とも言えます。

  • 資金ショート:資金が不足しているため支払いができない状態
  • 債務超過:資産より負債が増えてしまった状態

会社は、資金ショートの状態を乗り越えようとした場合、信用融資を受けるかもしれません。融資を受けたお金は、会社の負債(借金)となり、返済しなければ増え続けます。その結果、資産より負債が増えてしまうと、債務超過の状態になるでしょう。

要するに、債務超過は資金ショートの先に起きるかもしれない会社の負債が増える状態と考えられます。

資金ショートが起きたときに企業が直面するリスク

資金ショートは、現時点で資金を動かせない状態です。例えば、100万円の部材の仕入れをした場合は、部材と引き換えに100万円の現金を支払わなければなりません。資金ショートを起こしている状態では、取引先に仕入れ金の100万円を支払えないことが考えられます。

このように、資金ショートを起こした企業には何らかのリスクと直面します。この項では、資金ショートを起こした企業が直面するリスクをいくつか紹介しましょう。

それぞれ順に解説します。

資金ショートが起きると黒字でも倒産のリスクがある

資金ショートが起きた場合は、経営状態が黒字でも倒産のリスクが考えられます。黒字は、事業収益が発生している状態です。しかし、会社経営が黒字であっても黒字倒産を起こすケースもあります。

黒字で倒産するケースは、帳簿上商品の売上が伸び利益を出しているのに、経費を支払う資金が不足している状態です。黒字倒産のリスクは、企業間取引において考えられます。

例えば、帳簿上の利益と実際の現金に差異がある場合です。

  • 帳簿上の利益:売上高100万円、諸費用70万円、差し引き利益30万円
  • 実際の現金:収入0円、支出70万円、現金マイナス70万円

商品の代金が商品と引き換えであれば問題ありません。しかし、資金がない場合は、諸費用70万円の支払いができなくなります。商品代金(100万円)の入金は、数か月先という場合も考えられます。その場合は、売掛金の増加につながるでしょう。

売掛金が未入金のままでは、手持ちの資金から支払う必要があります。その時点で手持ちの資金がなかった場合は、帳簿上は黒字でも資金繰りが間に合わず倒産するケースも考えられます。

要するに、会社が資金ショートの状態では諸経費の支払いもできません。いくら利益が出ていても、手持ちに資金がなければ経営破綻になります。

取引先への支払遅延で信用を一気に失う恐れがある

資金ショートによるリスクは、企業にとって取引先の支払い遅延で信用を一気に失うことです。企業では、仕入れや外注先との取引などの支払いが考えられます。もし、仕入れ先の支払いを滞らせた場合は、取引相手から「支払い能力のない会社」と思われてしまいます。

支払遅延は、一度でも起こしてしまうと一気に信用を失う恐れのある行為です。最近では、企業間取引が拡大傾向となっています。令和5年調査のBtoB-EC市場規模の推移は、全体で465兆2,372億円規模で前年比10.7%増となっています。インターネット環境やコミュニケーションアプリの普及などにより企業間取引は拡大している傾向です。

企業間取引の拡大は、さまざまな取引相手と接する機会が増えていることも要因ではないでしょうか。チャットツールや電子サインなど、非対面で処理できるツールの台頭もその後押しとして考えられます。利便性が高くなった分、支払遅延などを起こせば、一気に信用を失う要因にもなりかねません。現代の効率的に行われる企業間取引では、支払遅延は大きなリスクになるでしょう。

不渡りや銀行取引停止処分は事業継続の致命傷になる

資金ショートが引き起こす企業のリスクでは、手形や小切手などの不渡りや銀行取引停止処分などが考えられます。場合によっては、事業継続の致命傷になるでしょう。

不渡りとは、仕入先などの取引相手に現金ではなく、約束手形を振り出した際に起こりうる問題です。手形を振り出した会社が支払期日までに現金化できない場合に、不渡りとなります。

約束手形を発行された受取人(取引相手)は、現金化されるはずの資金を得られなくなります。そのため、金額によっては取引相手の資金繰りにまで影響を及ぼすでしょう。

約束手形や小切手などの不渡りを起こした場合は、銀行による取引停止処分の対象となります。取引停止処分を受けた場合は、手形交換制度に参加する銀行との当座預金取引や貸し出し取引などが禁止されます。銀行取引停止処分を受けると、事業継続は難しくなるでしょう。

社員の給与未払いは離職と法的トラブルを招く

資金ショートが及ぼすリスクは、取引先とのトラブルだけではありません。会社が支払うべき、社員の給与未払いにも影響します。社員の給与未払いは、働く意欲を低下させ離職や法的なトラブルを招く可能性があります。

社員にとっては、自分が働いた給与を受け取ることは当然の権利です。当然の権利を先送りにされたままでは、在籍する会社に不信感を抱きます。雇用主は、社員の不信感を放置したままにすれば、離職につながるでしょう。

給与未払いの対応が悪質であれば、法的に訴える社員も考えられます。実際に会社から給料を支払ってもらえなかった従業員が労働基準監督署への申告ができます。

資金ショートが起こる中小企業に共通する主な原因

そもそも資金ショートは、どのような状況や経営状態から生まれるのでしょうか。先述した資金ショートは黒字経営でも起こる問題と伝えました。要するに、資金ショートは経営状態が悪くなくても、何らかの要因により起こることが考えられます。

中小企業庁では、小規模事業者が資金繰りに支障を出している理由の統計を公開しています。

  • 売上の減少:25%
  • 原材料費の高騰:25%
  • 現預金の不足:17%
  • 借入金の返済負担ひっ迫:14%
  • 人件費の増加:6%
  • 新規の設備投資負担の増加:4%
  • 売掛金・運転資金の増加:4%
  • 取引先の倒産、突発的な資金需要の発生:2%
  • その他:4%

実際には、売上や仕入れなどの影響が全体の半数以上を占め、資金繰りに支障を出している状況です。資金繰りに支障が出ている状態は、資金ショートとも考えられます。この項では、資金ショートが起こる中小企業に共通する主な原因を紹介しましょう。

それぞれ順に解説します。

入金と支払いのタイムラグが最大の引き金になる

資金ショートになる原因のひとつは、入金と支払いのタイムラグが最大の引き金となると考えられます。黒字でも資金ショートになる原因は、この入金と支払いのタイムラグが大きく影響しています。

例えば、ネット決済のみで対応している場合は、当月の売掛金の増加が考えられるでしょう。つまり、当月300万円を売り上げたとしても入金されるタイミングが翌月末だとします。300万円の商品を準備するために100万円の原材料費がかかったとしましょう。さらに、原材料を加工する従業員の給与も支払わなければなりません。

  • 売上:300万円
  • 原材料費:100万円
  • 従業員給与:100万円
  • 資金:100万円

もし、手元の資金が100万円だとしたら、原材料費または従業員の給与のどちらかしか支払うことができません。どちらかの100万円は翌月の入金待ちとなるでしょう。その際、原材料の仕入れ先も従業員の給与も当月中に支払う必要があれば、どちらかを待たせることになります。

前述した給与の未払いや支払遅延は、相手の信用を失う要因にもなります。この例のように、入金と支払いのタイムラグは、資金ショートの大きな引き金にもなるでしょう。

売掛金の焦げ付き(未回収)が経営を直撃する

売掛金は、現代の会社経営では大きなウェイトを占めています。日本では、年々キャッシュレス決済の普及が増加している状況です。2024年のキャッシュレス決済普及率は、42.8%となっています。経済産業省の調べによると、2024年のキャッシュレス決済額の利用媒体の内訳は以下の通りです。

  • クレジットカード:82.9%
  • デビットカード:3.1%
  • 電子マネー:4.4%
  • コード決済:9.6%

キャッシュレス決済は、商品やサービスの購入ハードルを下げる役割を担っています。迅速に決済できる点や販売者側の業務効率を向上させる点がメリットです。

キャッシュレス決済の普及が拡大するとともに、企業の売上は売掛金として計上されることが増えます。要するに、売掛金の増加により売上金の入金までのタイムラグが生じるわけです。手持ちの資金が少ない企業であれば、売掛金の現金化までの資金繰りで苦労するかもしれません。

状況によっては、売掛金の焦げ付き(未回収)なども考えられます。入るはずだった売上金が回収できなくなると、経営に直撃する可能性もあるでしょう。

固定費の比率が高く売上低下時のキャッシュ維持が困難

資金ショートを引き起こす企業の特徴は、固定費の比率が高い点ではないでしょうか。固定費の比率が高ければ、売上低下時のキャッシュ維持が困難になります。景気の動向に関係なく安定した売上を見込める場合は、経費の変動も少なくなり固定費として扱えるようになります。固定費として考えられる経費は、次の通りです。

  • 労務費
  • 交通費
  • 福利厚生費
  • 賃貸料
  • 保険料
  • 水道光熱費など

これらの経費を固定費にする場合は、安定した売上が必要になります。もし、売上が低下してしまうと、従業員の給与の支払いにも影響を及ぼすでしょう。固定費の比率が高ければ、万が一起こるかもしれない売上低下による現金の支払いが難しくなります。

そのため、企業は固定費と変動費のバランスも考え、起きうるリスクにも配慮した対応が必要です。

金融機関への借入返済や利息支払いの負担が重い

資金ショートは、毎月の支払い負担の大きさによっても発生します。企業によっては、金融機関から融資を受けているケースも少なくありません。金融機関から借りている借入金の返済や利息の支払いなどの負担が大きければ、資金ショートを引き起こす可能性があります。

日本の企業向け融資の動向は、2014年以降から2023年にかけて増加傾向になっています。2023年第4半期の貸出残高の状況は、次の通りです。

  • 大企業:131.0兆円
  • 中小企業:346.9兆円

特に、金融機関における中小企業の融資状況は、大企業の倍以上となっています。資金にゆとりのない企業の場合は、借入返済や利息支払いにあてる資金繰りが難しくなるかもしれません。

好景気の状況を基準に返済額などを設定した場合は、売上の減少などで資金ショートを引き起こす可能性があります。企業は、融資する段階でゆとりのある返済計画を設定する必要があるでしょう。

税金や社会保険料の支払いも資金を圧迫する

資金ショートは、税金や社会保険料の支払いが原因で起きることも考えられます。納めるべき法人税や社員の社会保険料なども資金繰りを圧迫する可能性があります。2024年度は税金・社会保険料の滞納により倒産した企業(負債1000万円以上の法的整理の企業が対象)が過去最多の数字になっている状況です。

  • 2022年度:97件
  • 2023年度:139件
  • 2024年度:140件

税金は、未払いのままにしておくと税務署から督促状が届き、延滞金を追加したうえで納めなければなりません。それらの通達を無視した場合は、行政による資産の差し押さえまで進展する場合もあります。

社会保険料(厚生年金保険、健康保険など)は、雇用主と従業員で折半となっています。資金不足の状態では、会社負担の部分が圧迫することも考えられるでしょう。

コロナ禍・原材料高騰など外部要因の変化に対応できない

現代では、コロナ禍や原材料高騰など外部要因の変化による資金繰りの難しさが考えられます。資金ショートは、内的要因ではなく社会情勢による外的要因の変化に対応できないことが原因にもなるでしょう。

東京商工リサーチの調べによると、コロナ禍の資金繰り支援で過剰債務が重くなっている企業は少なくないとのことです。そのうえ、世界経済を直撃する原材料費の高騰が問題になっています。原材料費が高騰する原因は、海外の経済・物価情勢や、資源・穀物価格の輸入物価の動向などの影響が関係しています。

企業は、海外から輸入する原材料費の高騰を受けつつ、その動向に対応できる資金力や体制づくりがポイントとなるでしょう。外部要因への対応ができない企業は、資金ショートを起こす可能性が高くなります。

資金管理体制が甘いと資金繰り表が機能しない

資金ショートは、資金管理体制の不備が原因で起きる場合もあります。資金管理体制が甘い企業では、資金繰り表が機能しなくなります。

資金繰り表とは、現金収支の状況を表にまとめて管理する書類です。資金ショートを起こす要因は、「どれくらいの収入がいつ入金されるか」や「いつどれくらいの支払いが必要か」という収支状況を正しく把握しなければなりません。そもそもずさんな収支管理で経営を続けていては、資金ショートが発生しやすくなります。

資金管理体制は、企業の事業活動における資金繰りを管理する体制を整備することです。企業が事業を行ううえで経営資源は欠かせません。経営資源として重要な部分が資金です。

企業は、従業員を雇用するにあたっても給与の支払いにあてる資金が必要となります。また、商品やサービスを開発するための原材料購入においても、購入資金がなければ始まりません。資金管理体制は、事業活動の「ヒト・モノ・カネ・情報」などすべての資金繰りにおいて重要な役割を担います。管理体制が整っていなければ、資金ショートのリスクが高まるでしょう。

資金ショートを回避するために知っておきたい予防策

前述したように、資金ショートは会社経営のあらゆる状況から発生します。そのため、日頃から行うリスク管理が重要ではないでしょうか。ビジネスには絶対はあり得ないので、ときには不透明な部分への投資も必要かもしれません。そのような状況においても、資金繰りの管理は欠かさず記録することが大事です。

資金ショートは、経営状態が健全であっても管理に落ち度があれば黒字でも倒産に追い込まれるケースは少なくありません。

資金ショートを回避するには、予防するための対策が必要です。例えば、前述した資金繰り表の適切な作成や回収と支払いのバランス、売掛債権の早期現金化などが考えられます。

それぞれ順に解説します。

資金繰り表を毎月作成し現金収支の可視化を徹底する

資金繰り表の作成は、資金管理体制を整えるうえで重要な取り組みになります。資金繰り表は、現金収支の可視化を徹底するために、毎月作成しなければなりません。可視化する内容は、次の通りです。

  • 売上高
  • 前年同月の売上高
  • 前月繰越金

これら売上高を月単位で推移しながら収入と支出の状況を把握します。

収入の部

  • 現金売上
  • 売掛金回収
  • 受取手形入金・割引

支出の部

  • 現金仕入れ
  • 買掛金支払
  • 手形決裁
  • 外注加工費
  • 人件費
  • 諸経費

これら収入と支出の状況においても月単位で確認することが重要です。資金繰り表で現状を確認できれば資金ショートとなる入出金のタイムラグを早めに察知できます。

回収サイトと支払いサイトのバランスを最適化する

資金ショートを予防するには、回収サイトと支払いサイトのバランスを最適化することが必要です。独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下中小機構)による資金繰り改善法では、営業活動と資金の流れを可視化する指標として回収サイトと支払いサイトが指摘されています。

  • 回収サイト(売上債権回収サイト):売上や債権などの発生時から資金回収するまでの期間
  • 支払いサイト(仕入れ債務支払いサイト):仕入れや債務発生時から資金決裁するまでの期間

回収サイトは、期間が短いほど資金繰りが楽になります。逆に、支払いサイトは期間が短くなると資金繰りが苦しくなるという正反対の性質が特徴です。

資金ショートを防ぐには、回収サイトと支払いサイトの特徴を理解して最適なバランスに調整しましょう。

売掛債権を早期に現金化する仕組みを用意しておく

資金ショートを起こさないための取り組みは、売掛債権の早期現金化が対策となります。売掛債権を早期現金化するには、事前に仕組みを用意しておくことで未回収を防げます。

売掛債権は、放置したままだと資金ショートだけではなく、不渡りのリスクも生じます。そのため、早めの現金化が資金を確保する手段となるでしょう。

企業は、保有する売掛債権などを法的に売買契約する取引が求められています。売掛債権などを譲渡する売買契約は、ファクタリングと呼ばれています。

ファクタリングは、売掛債権が現金化される前に一定の手数料で現金化するサービスです。売掛債権を早期に現金化する仕組みとして有効な方法になるでしょう。ただし、ファクタリングに見せかけた偽造貸金サービスもあるため、利用については、慎重に行うべきです。

資金ショートした場合に検討すべき緊急対策

資金ショートは、黒字経営や赤字経営に関係なく突然起こりうる問題です。先ほど紹介した資金ショートを回避する予防策により、ある程度は防げます。ただし、計画した資金繰りが外的要因により上手くいかなくなるケースもあるでしょう。

安定していた固定費が急に高騰したり、原材料が高騰したり予期せぬ事態も考えられます。急に発生するリスクには、日ごろから対策を打つことも一つの方法です。

資金ショートを起こした場合に検討すべき緊急対策については以下のとおりです。

それぞれ順に解説します。

支払い猶予や分割交渉で短期的に資金を確保する

資金ショートを起こした場合は、短期的な資金確保の緊急対策が必要です。短期的な資金確保とは、支払い猶予や分割交渉などが考えられます。売掛金の支払時期を伸ばしてほしいと考えている企業は、少なくありません。

納税の場合は、税金を期日までに納められない場合、申請することで「徴収猶予(災害などで税金を納められなくなった事業者への猶予手続き)」や「換価の猶予(事業の継続性の困難が認められた場合の差押財産の売却猶予期間)」などの納税の猶予制度が利用できます。主税局で定める猶予制度の延長期間は、最大で1年間となっています。例えば、税金を納めるにあたって売掛金の入金待ちであれば、徴収猶予や換価の猶予を活用することもおすすめです。

また、債権者との交渉が必要になりますが、分割交渉も視野に入れて検討しましょう。取引先が分割交渉に応じた場合、資金不足の状態でもショートせずに乗り切ることができます。このように、支払い猶予や分割交渉など、短期的な資金確保につながる対策も有効です。

すぐに現金化できる資産を洗い出して売却を検討する

資金ショートを防ぐための緊急対策では、現在ある資産からすぐに現金化できる資産を洗い出しておくことも有効です。例えば、利用していない遊休土地や社用車などがあれば、万が一の売却用資産として資産価値を調べておきましょう。

資金ショートは、突然起きる可能性があります。黒字で経営していたとしても大口の取引相手が不渡りを出した場合、連鎖的に影響を受ける場合もあります。すぐに現金化できる資産の洗い出しは、万が一のときの緊急対策として有効です。この方法は、あくまでも緊急的な対応となります。資金が不足した際の保有資産の価値の変動も考えられるため、最終的な判断とも考えられるでしょう。

銀行融資・制度融資を受けるための動きを即座に始める

資金ショートは、資金が不足している状態をあらわします。当然のことながら、資産が不足している状態で経営を続けることは、資金ショートと背中合わせの状態とも言えるでしょう。

手元に資金のない企業の場合は、資金ショートへの対策として銀行融資や制度融資を受ける必要があります。企業価値は、保有する現金だけでは判断できません。

事業の将来性や保有資産による審査により融資を受けられる場合もあるでしょう。銀行の場合は、現在の資産に担保価値が認められれば融資が受けられる可能性もあります。また、公的な制度融資であれば、条件に該当すれば融資対象になるかもしれません。まずは、融資を受けるための動きとして、銀行や制度による融資の情報収集や実際の相談窓口を訪問するなど即座に動き始めることが重要です。

請求書カード払いの活用で支払いを最大60日引き延ばす

請求書カード払い「ゆとりペイ」で実質的な支払いサイトを延長

資金ショートへの対策には、取引先から発行される請求書に対してカード払いを活用する方法もあります。請求書の支払いをカード払いにした場合は、支払いが最大で60日引き延ばせます。資金繰りをサポートするサービスでは、カード払いの活用など、柔軟な支払い計画のサポートが期待できるでしょう。

請求書カード払いは、増加する売掛金への対策としても有効です。一般的に売掛金処理が増えるのであれば、できる限りカード払いを活用し、支払い処理を引き延ばすことも考えましょう。

請求書カード払いのメリットは、最大60日間の支払期限の引き延ばしだけではありません。月額費用や初期費用の必要がないため、発生コスト以外は費用がかからない点が大きなメリットではないでしょうか。つまり、請求書カード払いのサービスを活用しなければ、無駄なコストが発生しない仕組みです。

請求書カード払いを活用した場合は、自身が支払者であれば、支払者向けソリューションを活用できます。支払者向けソリューションでは、カード決済後に最短即日で取引先に入金処理されます。逆に、自身が請求者の場合は請求者向けソリューションの活用が可能です。請求者向けソリューションは、最短即日の入金が期待できます。請求書カード払いは、支払者と請求者のどちらにしても迅速なキャッシュフローを実現できるサービスです。

ファクタリングを活用して売掛債権を売却す

資金ショートの緊急対策は、前述したファクタリングの活用もひとつの方法です。売掛債権の相手に対して不安を持ったまま事業を進めるのではなく、積極的にファクタリングを活用することも効率的な売掛債権の処理方法になるでしょう。

ファクタリングの活用には、一定の手数料も発生します。しかし、大口の債権を回収できなかった場合のリスクも考えた場合、その手数料が保険の役目を果たします。実際のファクタリングサービスでは、売掛債権の売却に「どれくらいの手数料がかかるのか」について調べ検討したうえで判断しましょう。一般的にファクタリングの活用は、手数料が数%~20%かかります。

請求書カード払いのサービスを活用した場合、ゆとりペイでは手数料が非課税で2.9%です。さらに、最低手数料が990円で利用可能となっています。請求書カード払いのサービスでは、企業の状況に合わせた支払い計画についてもサポートが期待できます。まずは、相談から始めてはいかがでしょうか。